年金に頼れない時代が到来。高齢者が直面する貧困の実態
日本の高齢者の主たる収入は年金です。年金は受給できる金額が人によって異なり、65歳以上の平均年金月額は12.3万円となっています。また、75歳以下の人の平均年金月額はさらに下回ります。それに対して、高齢単身世帯の1か月平均消費支出は、男性が約16.5万円、女性が約15.5万円と平均年金額を上回っています。(※1.2)

国民年金の支給額も変化しており、2022年度の国民年金の満額支給額は、77万7,800円です。10年前の2012年度の満額支給額は78万6,500円でした。つまり10年間で年額8,700円の減額となっています。少額のように見えますが、それでも年金保険料は10%以上上昇しています。
少子化の影響で保険料を負担して働く現役世代の減少が続く中、社会の高齢化が進み、より支給額が減っていくことが予想されています。
さらに、高齢者は収入を増やすために働きたくても、雇用先が少なく、少ない生活費を支えてくれる家族もいない単身世帯の人も多い状況です。また、70代後半を過ぎると病気をしたり、介護が必要になる人も増えるため、追加の収入を得ることが厳しくなることから、高齢者の貧困の問題は簡単には解決が難しい社会問題となっています。さらに、65歳以上の約3割の方が「家計にゆとりがなく心配である」と返答しており、生活に不安を感じている高齢者も少なくありません。(※3)
「独居高齢者の現実」
葛城幸子さん(仮名、70歳)は、夫と一緒に長年自営業を営んできました。しかし夫が胃がんを患い、15年前に55歳という若さで亡くなってしまいました。その後は一人で店を切り盛りしていましたが、60歳の時に持病の腰痛が悪化し、働くこともできなくなりました。店を畳むことになり、一人息子の長男は結婚を機に県外に引っ越したため、それ以来一人暮らしをしています。
世帯収入は本人の年金のみで、手取り金額は月6万円弱です。長男から毎月2万の仕送りがあるものの、家賃、食費、光熱費だけでも月約8万円がかかります。また、自身の治療費と病院までの交通費を合わせて毎月約1万円捻出する必要があり、赤字の月であることがほとんどです。夫が残した貯金も少しずつ減っていき、あと数万円。何とか乗り越えようと、これ以上病状が悪化しないことを祈る日々を過ごされています。
幸子さんには2人の孫がいます。年に数回しか会うことができませんが、幸子さんに懐いており、孫の存在が一番の生きがいになっています。
しかし、孫へのお年玉やお小遣いもわずかな額しか渡すことができません。
長男から「お母さんから子どもたちに渡してあげてほしい」と現金を渡されたこともありました。友人や同世代のご近所の人と話をすると、出てくるのは孫の話。「一緒に遊園地に行った」「ランドセル、勉強机を買ってあげた」など孫と楽しく過ごした話を聞くたびに、周りが当たり前のようにしていることができていない現状に強い劣等感を感じていました。
そんな生活を何とか続けていた幸子さんですが、飲食店に勤務していた長男が、コロナと物価高騰の影響で店の経営状況が悪化し、仕送りをしてもらうことができなくなりました。幸子さん自身も近年の物価高騰に伴い、公共料金も未納の月が続き、電気、ガスを止められたこともありました。また食事が一日一食の日も増え、幸子さんの生活は行き詰まってしまいました。
幸子さんは、自身がコロナ罹患した時に利用した「おたがいさま便」(※4)のことを思い出し、社会福祉協議会に相談することに決めました。職員にこれまでの経緯を話し、今後の生活や家計について一緒に話し合いを行いました。その後、職員と生活保護の相談に行き、生活保護を受給することとなりました。現在は月3万円弱のアパートに引っ越し、贅沢はできませんがお金がなくて食事を抜くこともしなくてよくなり、電気やガスが止まることもなくなりました。また腰痛のための通院も継続できています。慎ましい生活ではありますが、お金の心配がなくなり、心にゆとりをもって暮らすことができるようになりました。
(令和2年3月時点で、全国で約203万人の方が生活保護を受給しており、その内、52%にあたる約105万人が65歳以上の高齢者となっています。)(※5)

公的年金には期待できない?
金融機関などで「新NISA」や「iDeCo」について勧誘された方も多いのではないでしょうか。どちらも長期的な視点で運用することを前提とした制度で、非課税で投資をすることができる制度です。この制度創設の背景として公的年金だけでは生活することができなくなる危険性が高まってきており、自身で老後資金を準備しておくことの必要性を訴えるものではないかと、金融機関の関係者は話しています。こうした制度などを活用して、長期的に資産を確保していくことも重要ではありますが、現在も貧困状態で生活に困っている高齢者は大勢います。年金も以前に比べて減少傾向にあり高齢者の収入が減っており、自助努力も必要な状況ですが、それに加えて関係機関のサポートや、生活困窮者への国レベルの対策の一層の強化も求められています。

(※1) 統計局ホームページ/3 高齢単身世帯の家計収支の状況 (stat.go.jp)
(※2) 厚生労働省koutekinenkin_jukyusha_202106.pdf (mhlw.go.jp)
(※3)1 就業・所得|令和5年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府 (cao.go.jp)
(※4)「おたがいさま便」:伊賀市在住の買い物に行ける成人家族全員が新型コロナウイルス感染若しくは濃厚接触者で自宅待機している世帯に対して食料や生活必需品を支援する事業
(※5)厚生労働省「令和2年度 被保護者調査 年次調査」000977977.pdf (mhlw.go.jp)