MENU

  • 寄付する

  • サービスアイコン

    サービスを
    利用したい

活動レポート

Report

妹の世話で学校に行けない子ども

 家族の世話や介護をする子どもは昔からいましたが、近年、核家族化や共働き世帯の増加、ひとり親家庭の増加など、社会構造の変化に伴い子どもにかかる負担が大きくなってきていると言われています。家族の世話や介護のために勉強する時間がなく学力が低下してしまった、部活動や友達と遊ぶ時間がなく悩んでいる子どもたちが増えていくことが危惧されます。

 本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもたちのことを「ヤングケアラー」と呼び、厚生労働省の調査(全国の小学校から抽出した、およそ2万4500人の小学6年生を対象に調査(令和3年度))によると、およそ15人に1人が「世話をしている家族がいる」と答えたそうです。

 伊賀市においても令和3年度伊賀市教育委員会の行った調査によれば、38人の小中学生が「ヤングケアラー」に該当することがわかってきました。

満足に食べることができない女の子

 ある日、関係者から「お金が無くてガスが止まった家がある。相談に乗ってあげてほしい。」と連絡があり、ご自宅へお伺いしました。

 自宅には両親と小学3年生の長女ともうすぐ1歳になる次女の家族4人が暮らしていました。その中で小さな赤ちゃんを抱っこしている長女のことが気になりました。

 自宅に伺うと開口一番、「食べるものがなく困っている。どうしたらよいか。」と母親から相談を受けました。

 事前に食糧支援を受けられることを聞いていたようでした。詳しく状況を伺った後、食糧を事務所まで取りに戻り、その日のうちにお届けすることとなりました。その際に、気になった長女の沙希さん(仮名)と話をすることができました。

妹の世話で学校にも遊びにも行けない

 沙希さんは、「妹の世話は私がやっとる。毎日。」「赤ちゃんはかわいいし、お家で一緒に遊ぶのは楽しい。」「学校?あんま行ってない。妹の世話、忙しいし。」と、妹を抱きながら話しました。沙希さんは、妹の世話を優先するあまり、学校に行けていないようでした。

 持って行った食糧を広げたところ、「やったー!カレーだ!」「ゼリーもある!」その場で沙希さんは、がっつくようにゼリーを食べ始めました。

 沙希さんは、「お母さんは毎日しんどいって言うとる。妹の世話は沙希がしやな。」と話す反面、「学校で友だちとおしゃべりしたい。帰ってきてから友だちと遊びにいきたい。」とも話していました。

妹を毛布で抱っこして暖をとった夜

 最初に訪問してから数日が経過したある日、再び連絡がありました。電気料金の滞納から、電気が止まったとのことでした。タイミングの悪いことに、最高気温が1度という大寒波が襲来していた時でした。急いで訪問すると、母親と子ども二人が身を寄せ合って寒さをしのいでいました。「電気が止まってエアコンが使えなくなった。灯油のファンヒーターはあるけれど、灯油を買うお金がない。」と母親が話しました。沙希さんは、「真っ暗やったけど寒かった から、家族みんなで『おしくらまんじゅう』した」「妹は毛布に包めて一日中抱っこしとったからそんなに寒くなかった」と明るく話をしてくれました。土木関係の会社で働くお父さんが出張で家にいない中、真冬の暗闇の中で、幼い子のいる家族3人が暖をとる姿を想像し、胸が締め付けられるようでした。

妹を毛布で抱っこして暖をとった夜

学校に行かせてあげたい

 沙希さんは母親に対して、「家にいてくれることが多いからうれしい」と言います。母親は過去に正社員で働いていましたが、職場での度重なるパワハラとセクハラで、重度のうつ病になってしまい、現在もあまり外出することができません。

 沙希さんは母親が精神的に辛く、一人で育児ができる状況ではないということを理解しています。責任感が強く、長女の務めを全うしたいと思っている沙希さんは、決して弱音を吐きません。

 

 何度も自宅に訪問するにつれ少しずつではありますが、あまり喋ることのなかった母親も、普段の愚痴や困りごとを話してくれるようになりました。沙希さんも、当初は距離があったものの、今は「何しに来たん。」「また来たん。」とニコニコしながら嬉しそうに出迎えてくれます。今後は少しずつですが、生活が安定し、登校頻度が増え、友達とも遊びに行くことができたり、さらに次女も保育園に行けたりするようになればと考えています。

学校に行かせてあげたい

 このような家族の育児や介護等の世話をしているのは、沙希さんに限ったことではありません。

全国でも「ヤングケアラー」と呼ばれる、未成年者が家族の介護や幼い弟や妹の世話をしている子どもたちが増加しています。厚生労働省の調査(全国の小学校から抽出した、およそ2万4500人の小学6年生を対象に調査)によると、およそ15人に1人が「世話をしている家族がいる」と答えたそうです。

 沙希さんの他にも、ヤングケアラーの状態の子どもたちは伊賀市内にいます。一人でも多くの子どもたちが「子どもらしい生活」ができるように、関わっていきたいと思います。

(写真はイメージです。個人情報保護のため、複数の家庭の声を元にストーリーを再構成しています。)

一覧に戻る