第3章 水害時のボランティア活動
水害時の復旧作業のうち、被災者自身が行うものは、排水、土砂の除去、瓦礫の撤去、倒木の除去、家屋の清掃、通路の確保、たたみの清掃、家屋内部の清掃、土のうの撤去、ドロをかぶった家財道具の搬出、ドロをかぶったたたみの撤去、ゴミの分別処理、ゴミ類の集積場への搬送、生活家具類の整理整頓などです。
行政の役割は主に、道路、公共施設等の復旧のほか、清掃後の各家庭の消毒(消毒剤の配布等)ゴミ収集・撤去となります。ですから家屋の中に入り込んだ土砂などの除去等、家の敷地内の復旧は基本的には被災者の自助努力で行うこととなります。
このような私有地内での作業は多くの場合、家族や親類、隣近所の助け合い(共助)で行われることとなりますが、一人暮らしの高齢者など、支援が必要なケースもあります。その際に、隣近所以外の地元や外部からの救援ボランティアが復旧作業を手伝うことが求められます。
被災地を覆ったドロは、汚物も含んでいて不潔なため、作業には通常の清掃作業以上に衛生管理の徹底が必要です。また、水を含んだ畳の運び出しなどは、若者でも重労働となります。作業によりボランティアの方々が「二次災害」を被らないようにする工夫が必要となります。また、ボランティアは被災者に対して過剰な支援を行わないことにも注意が必要です。ボランティアは被災者が、再び自分の力で立ち上がれるように支援を行うことが大切で、被災者の状況が落ち着いてくれば、その後は地域のコミュニティがその地域に合った方法で被災者の自立を支援することを尊重すべきです。
このマニュアルでは、災害時のボランティアセンターは、市町村単位で設置され、本部スタッフを除いて、その他のボランティアは日帰りで活動が可能であることを想定しています。また、ボランティア活動では炊き出しでの食中毒、交通手段を持たないボランティアが現地に入ることがかえって復旧の妨げになる等様々な問題があり、これら問題の処理のため、災害時のボランティアセンターの役割が重要であることを理解いただくことに力点を置いています。

医療救護
災害時のボランティア活動には、発災直後に必要な医療救護やレスキュー活動がありますが、このマニュアルでは日本赤十字社の医療救護活動について述べます。
1.災害救護活動
日本赤十字社の災害救護活動は以下の5つに区分されます。
医療救護
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救援物資の備蓄と配分
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災害時の血液製剤の供給
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義援金の受付と配分
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その他災害救援に必要な業務
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日本赤十字社は、災害対策基本法に定める指定公共機関に指定されています。
2.医療救護
災害時において被災者に対する一刻も早い応急救援が必要とされる場合に、日本赤十字社は救護班を派遣し、救護活動を行います。これは、迅速な応急的災害医療により、一人でも多くの人命を救助するとともに、被災地の医療機関の機能が回復するまでの空白を埋める役割を果たすものです。また、避難所などへの巡回診療を行うこともあります。
医療救護については、災害救助法に基づく「災害救助に関する厚生省と日本赤十字社との協定」により、「医療、助産及び死体の処理(一時保存を除く)」が各都道府県知事から日本赤十字社に委託されることとなりますが、知事からの要請がなくても、日本赤十字社独自の判断で救護班を派遣して救護活動を行うこともあります。
(1)救護班
非常災害時において日本赤十字社が医療救護活動を展開するにあたり、活動の実施主体となるのが救護班です。
救護班は、原則として医師を班長とする6人(内訳は表1)を1班として編成し、医薬品や医療資器材のみならず食料、衣類、寝具等も持参し、自己完結型の医療救護活動を展開します。なお、日赤各都道府県支部において常備すべき救護班の定数は表2の通りですが、平成11年3月31日現在では全国で468班(6,224人)を編成しています。
(表1)救護班の構成及び役割
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人数
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役 割
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医師
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1人
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救護班班長として、診療業務主導者及び管理業務責任者としての役割を遂行する。
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看護婦長
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1人
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班長業務の補佐として班長に協力するとともに、班運営に適切な助言をする。
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看護婦
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2人
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班長や看護婦長の指示のもとで適切な救護活動を実施する。
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主事
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2人
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救護班における庶務的役割を遂行する。
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計
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6人
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(表2) 支部において常備すべき救護班の数(計455:平成11年3月31日現在)
支部名
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救護班数
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支部名
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救護班数
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支部名
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救護班数
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支部名
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救護班数
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本 社
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11
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群 馬
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8
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長 野
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12
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和歌山
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7
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福 岡
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15
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北海道
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20
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埼 玉
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10
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岐 阜
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8
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鳥 取
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5
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佐 賀
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5
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青 森
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8
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千 葉
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10
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静 岡
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10
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島 根
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5
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長 崎
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8
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岩 手
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8
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東 京
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20
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愛 知
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15
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岡 山
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8
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熊 本
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8
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宮 城
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8
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神奈川
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15
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三 重
|
8
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広 島
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10
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大 分
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8
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秋 田
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8
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新 潟
|
10
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滋 賀
|
8
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山 口
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8
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宮 崎
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5
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山 形
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8
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富 山
|
8
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京 都
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15
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徳 島
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7
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鹿島
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8
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福 島
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8
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石 川
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8
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大 阪
|
20
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香 川
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7
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沖 縄
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5
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茨 城
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8
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福 井
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8
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兵 庫
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15
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愛 媛
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8
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栃 木
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8
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山 梨
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5
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奈 良
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5
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高 知
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5
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(2)救護班が携行する救援資材
医療セット、天幕、担架、折り畳み寝台、発電機、投光器、無線機、浄水器 等
(3)無線機、車両 (平成11年3月31日現在)
業務用無線局 3,203局
○救急車・災害救援車等救護車両 2,150台
(4)救護班派遣要請システム
日本赤十字社が実施する災害救援活動は、災害が発生した地域の支部(被災地支部)が主体となって行います。ただし、救護の必要があると認めたときは、近接支部あるいは本社へ救援を要請することができます。
また、近接支部は災害等の状況により必要と認められる場合には、独自の判断により救護班等を派遣することができます。
3.救援物資の備蓄と配分
毛布、日用品セット、お見舞品セット(食料品の詰め合わせ)および各都道府県支部で独自に備蓄した救援物資を、被災者のニーズに応じて速やかに被災者に配布しています。
〈救援物資備蓄状況(平成11年度3月31日現在)〉
・毛布 207,944枚
・日用品セット 161,060枚
・お見舞品セット 6,616個
4.災害時の血液製剤の供給
血液センターの全国的なネットワークを活かして、災害時に大量に必要とされる血液製剤の供給に万全を期しています。
復旧作業
水害の状況によって復旧作業の内容は異なりますが、ここ数年の水害における復旧作業の実例をもとにボランティアが携わると考えられる復旧作業を整理したものが次の表です。内容、使用する道具については一例として参考になさって下さい。また、動力を使用する作業は、安全を第一に考えると一般のボランティアが関わるより、専門の機関等に任せることが望ましいと考え表からは除いてあります。
1.
清掃
項目
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内容
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使用する道具
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家屋の外(庭等)の清掃
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庭の汚泥の除去。外壁、戸、窓の洗浄。ゴミ拾い。草刈り等。
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スコップ、一輪車、竹ぼうき、棒たわし、たわし、雑巾
タオル、バケツ、ホース鎌、等
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家屋の中の清掃
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床下の泥出し。床板の除去と清掃。たたみの清掃。内壁の清掃。柱の洗浄。風呂、トイレ洗い等
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スコップ、棒たわし、たわし、雑巾、タオル、洗剤(石鹸)、バケツ、ホース
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家具・建具の清掃・洗浄
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泥の拭き取り。建具洗い。電気製品の拭き掃除等。
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たわし、雑巾、タオル、洗剤(石鹸)、バケツ、ホース
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農機具などの清掃
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鍬、鋤、鎌の洗浄。農作業機械の清掃・洗浄等。
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たわし、雑巾。バケツ、ホース
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仮住居の清掃
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床の清掃。窓ふき等。
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電気掃除機、雑巾、洗剤(石鹸)
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食器の洗浄
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割れた食器の除去。汚れた食器の洗浄と整理等。
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タオル、台所石鹸
、ゴミ袋、バケツ
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2.
衛生・消毒
項目
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内容
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使用する道具
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家屋の中の消毒
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床下、壁、風呂、洗面所、台所、トイレの消毒。
石灰の散布。殺虫剤の散布。
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石灰、殺虫剤、タオル
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家具の消毒
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家具の内部の消毒。
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殺虫剤、タオル
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庭(園庭)の消毒
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土壌の消毒。
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殺虫剤
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3.
修復・補修
項目
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内容
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使用する道具
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家具、畳の搬入
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家具、建具、畳、家財の搬入。ふすまの入れ替え等。
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台車
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電気製品の修理
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汚れの除去。絶縁部分の修理。
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工具一式、タオル
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家屋内の補修
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座板の補修。障子貼り。
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はけ、金槌
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生活支援
被災者への直接的な支援は、ボランティア活動の中でも最も期待されるものです。被災者にとって、このような個人的な生活支援は、大きな支えとなり、復旧・復興への足がかりとなります。ただし外部のボランティアによる支援は、住民同士の助け合いだけでは十分でない場合に限って行うべきです。
ここでは、復旧にかかわる作業分野から離れ、一般的な被災者の生活支援についての活動内容をまと めてみました。
被災者個人支援
内容
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注意する点
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作業着の提供
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救援物資として集める衣類は、作業用に適した衣類が良い。使い捨てをしてもらうので、十分に仕分けをしておく。使用済みの衣類を処理する方法を決めておくと良い。
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引越しの手伝い
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被災者の私有財産を扱うので、担当するボランティアの身元を明らかにしなければならない。
災害時のボランティアセンターで、受付をすること。
被災者がお手伝いの要望をした場合は、必ず災害時のボランティアセンターへ届け出る。 |
在宅被災者への巡回
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被災者のプライバシーに立ち入ることを認識すること。
被災者を弱者扱いしたり、「助けてやる。」という意識は自立を妨げ、被災者を傷つける。
「何でもします。」ではなく、どこまでの作業が必要なのかを事前に確認し、できないことは断る。専門家が必要な作業は、災害時のボランティアセンターに届け出る。
介護が必要な人の入浴は、ある程度専門的な知識と経験のある人が担当すること。被災者の話し相手となることは、ストレスを緩和する大きな効果がある。
飾った言葉や哀れみの表現を用いて話さないようにする。
プライバシーや私有財産にかかわるので、災害時のボランティアセンターで受け付ける。 |
老人介護
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専門家の指導のもとに行う。
痴呆症などの人を赤ちゃん扱いすると、当人の幼児化を促進してしまうことがある。 |
子供のケア
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その子どもの日常の習慣を崩さない。あくまでも短期の補助であることを認識する。
親の考え方を十分に確認してから子どもに接する。
災害に起因するトラウマが何らかの障害を生む場合もある。 |
障害者のケア
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生死に関わる補助であることも認識する。
専門家の補助員であるというスタンスを守る。 |
2.
難所支援
避難所への避難は、内水型水害の場合は事前に避難勧告が出されて発災前に避難していることが多く、外水型水害のように突然の洪水の場合は発災後に避難所が開設されてからの避難となります。
これらの違いによりボランティアの活動も変化します。
(1)内水型避難所
避難所には、地方自治体等によって必要な物資や日用品が準備されています。また、ボランティア活動もほとんど地元の方によって行われることが多いです。知った人同士の共助活動が中心となりますので、被災者は個人的な要望を我慢し、窮屈な生活を強いられることにもなります。避難所生活は、比較的短期間(1〜2日)になることが多いことから、被災者の共助が中心となり、おのずとその地域の慣習が活動のベースとなります。
(2)外水型避難所
この場合の避難所は発災直後のみならず、水が引いた後の、倒壊家屋に居住していた被災者を受け入れるものとなります。ですから震災による避難所と同じ条件や態勢が考えられます。内水型と違い、避難所生活は比較的長期になり、多くのボランティアの支援が必要となります。
内容
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注意する点
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炊き出し
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夏冬を問わず、できるだけ暖かい食事を提供すると良い。
汁物の炊き出しが食べやすく最適である。
人数や所要時間の制約があるため、食器を洗わなくてもよい工夫が必要である。(器にラップを敷く等)
紙製品を使用し不燃廃棄物を出さない。 |
食料・日用品の配布
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被災者全員に配れるだけの数量が確保されていない場合は、その最も有効な使い方を選び、たとえ特定の人への供給になっても他の人が納得できる配布をする。
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清掃
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整理整頓だけでなく、水やドロに汚れた衣類、家具、日用品の処置が必要である。水洗い作業や雑巾での拭き取り作業が多い。
重労働が多いので、被災者とも相談し、チームの編成と作業のローテーションを決める。
個々人が勝手に作業をしないよう統一した手順を作成することが望ましい。 |
洗濯
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水やドロに浸かった衣類は乾いただけでは使えないので洗濯をする必要がある。
衣類は原則として使い捨てにし、被災者にはこまめに着替えをしてもらうほうが良い。 |
風呂炊き
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すべての公衆浴場が使えなくなるのではないので、避難所では手足の汚れを落とす程度でよい場合が多い
乳幼児のための湯沸かしを忘れない。 |
3.地域住民及び地域外の人々への支援
水害の被災地では、インフラやライフラインの復旧作業に伴って、地域住民及び復旧作業等に携わる地域外の人々への日常生活にかかる支援が必要となります。特に復旧作業を円滑に行うためには情報のとりまとめが必要であり、また被災地域外の人々(ボランティア、マスコミ、復旧作業従事者など)と地域住民とのコミュニケーションについても支援を行う必要があります。
内容
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注意する点
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被災地ガイドの作成
(道案内や迷子案内等も含む)
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安全な道路、公共施設、商店などの情報が伝わるよう、地域住民の協力を得て作成すると良い。
支援に駆けつけるボランティアや専門機関の人にとってわかりやすいように作りましょう。 |
情報掲示板の作成
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情報の不足や情報の不正確な発信にならないよう注意する。
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資機材の提供
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復旧作業に必要な資機材は、地方自治体等ではまかなえないことがあるので、地域住民が協力し合って必要な資機材を持ち寄ることが大切である。
資機材の個人的な貸し借りではなく、地域住民がルールや役割分担を決め、総合管理をすることが望ましい。
地方自治体への要望も地域住民がまとまって行うことが良い。 |
場所の提供
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一時的な避難地や倉庫として民間の施設が役立つことがある。
民間施設の提供とその管理については、地域住民の自律的なルールの遵守が求められる。 |
救援物資の提供
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被災地外から届けられる物資だけでなく、被災地内でお互いに持ち寄る物資は、被災者に大いに役立つ。
洗濯できない状況では古着の提供が有効である。 |
義援金
義援金は、市民の自発的善意によって集められた寄付金です。それは、寄付される市民の意思を考慮すると、慰謝激励の見舞金の性格を濃厚に持つものであり、根本的には被災者の当面の生活を支えるものと位置づけらます。したがって、その配分に関しては、できるだけ早く配るという「迅速性」、寄付者の意思を生かし、かつ適正に届けられる「透明性」、被災者皆に被害の程度に応じて等しく配られる「公平性」といった、いわば義援金の三原則が守られる必要があります。 |